【インタビュー】ホーチミンで活躍する日本人画家・山洋平さん
2023年5月15日更新
ホーチミンで活躍する日本人画家の山洋平さん。
オプアート(Op Art)と呼ばれる、騙し絵のように特殊な視覚的効果を与える絵画を中心に、作品制作を行っています。
そんな山さんの個展が、6月28日~9月27日まで、ホーチミン2区・タオディエン地区にあるVIN GALLERYにて開催されています。
今回はその個展にお伺いし、作品についてや、ホーチミンで芸術活動を行うこと等について、インタビューしました。
自然や宇宙、大きな時間の流れを感じながら制作する絵画
――作品を観ていると、大きくて、うねりがあり、ずっと眺めていられるような不思議な感覚になりますね。展示名に「Time×Space」とありますが、やはり時間や空間をテーマにした作品なんでしょうか。
はい。時間の流れは大きく未来、現在、過去に分けられますが、私の絵ではそれを表現する3層のレイヤーがあります。でも、未来はすぐ現在になるし、現在はすぐ過去になりますよね。その時間の流れが、このキャンパスの上に表されていると思っています。
――そうですか。確かに3層のレイヤーが見えますね。これはアクリル絵の具を使っているのでしょうか。
一番上の層はアクリルとインク、そのほかはマーカーを使っています。
――なるほど。だから混じらずに層ができるんですね。こんな大きな作品を作るのはかなり時間や根気が要ると思うのですが、はじめに「こんな作品を作ろう」と決めて取り組むのでしょうか。
いえ、何かを作ろうというコンセプトがあるというより、「今」という、描き続けている時間を積み重ねていったら結果的にこうなった、という感じです。
私はあまり、「自分がこの作品を描いた」という感覚が無くて、自分の狙いとは違うことが起きたり、偶然の力に左右される面も大きいと思っています。感覚としては、半分が自分の力、半分がその他の力、という感じです。サイコロを振っている感覚、というのでしょうか。
――ということは、制作中は何も考えないのでしょうか。
いや、結構考えますよ。考えているし、音楽を聴いたりします。ただ、瞑想っぽくなるというか、ピースフルな感じに満たされています。
――その感覚は山さんにとって特別なものでしょうか。
そうですね。自分の力でコントロールできる部分ってとても小さいなと思っています。例えば人は自分の内臓すら自分の意識で動かすことはできませんよね。でも、内臓の動きひとつひとつが噛み合い、人体という大きな一つのものが動いていて、さらにそれは自然界という大きな集合のメンバーの一つになっている。自分にとって絵を描くことは、そんなことを考える時間です。
現代の人は、パソコンやスマホの画面を見て、目と指だけ動かして……という生活の中で、意識する世界のサイズが小さくなってしまいがちだし、身体性を忘れがちだと思います。そんな中、僕が全身を使って大きな絵を描くこと、そして更に大きな自然や宇宙について考えることは対照的だと思います。鑑賞者の方にとっても、そんな大きな視点を思い出すきっかけになれば嬉しいです。
――なるほど。どんな人に鑑賞してもらえると嬉しいですか。
そうですね。どんな方にも観て頂きたいですが、今は夏休みですから、日本から遊びに来た人が観に来てくれたらとても嬉しいですね。僕も、外国で日本人が何か活動しているのを観ると、「がんばってるな」と思ったり、特別な気持ちになるので。
これからが期待できるホーチミンのアートシーン
――山さん自身が、ホーチミンに住むようになったのは、どういった経緯なんでしょうか。
2011年からフランスに住んで作家活動をしていたのですが、このVIN GALLERYと縁ができて、2015年に初めて個展をしました。その際にホーチミンを訪れたところ、「いい雰囲気だな」と思って、2017年5月から移住しました。もともと、ずっと同じ場所に住んでいると飽きたり、煮詰まったりしがちな性格なので、ちょうど良いタイミングでした。
――ホーチミンどんなところに惹かれたのでしょうか。
街中の、トロピカルで温暖な雰囲気ですね。
――山さんは、2区のタオディエン地区にお住まいですが、ホーチミンの中でもここに住もうと決めたきっかけは何だったんでしょうか。
VIN GALLERYと、子供の学校が近くにあったことですね。また、妻がフランス人なのですが、ベトナム料理よりも西洋料理をよく食べるため、外国人向けのレストランが多いこの街は都合がよかったです。街が小さくて、出かけると誰かしら顔見知りに合うサイズ感も気に入っています。
――そうですか。山さんは、フランスやベトナムでの活動歴がありますが、日本人作家が日本以外で活動することはメリットがあると思いますか。
はい。美術は言語が関係ないですし、外国にいた方が有利な気はします。日本人としての民族性を意識するきっかけにもなりますし。それから、日本人が日本人に絵を見せるより、外国人に見せる方が、ギャップがあって、面白い効果が生まれると思います。
――お客さんのリアクションも、日本とは違いますか?
そうですね。日本にはあまりいないような、ものすごいお金持ちの方や、絵画コレクターの方が多く、絵を買ってくださる方も多くいらっしゃいます。
特に欧米や台湾、香港に、そういった方が多いですね。ベトナム人には、まだそういう方は、あまりいらっしゃいませんね。
――そうですか。ホーチミンという土壌で、これからアートが活性化すると思いますか?
はい、思います。ベトナムでアートをやっている若者を見ていると、物怖じしない積極的な態度の人が多く、「頼もしいな」と感じます。例えばバーでライブ演奏しているバンドに、その場に即興で乗り込んでいけるような強さですね。そういう点は、日本の若者よりもずっと期待できるなと思います。
――ホーチミンのアートスポットで、山さんおすすめの場所があれば、教えていただけますか?
まず、ここと同じようなギャラリーですと、2区にある「The Factory Contemporary Arts Centre」と、1区の「Galerie Quynh」。それから、知人がやっているアートカフェ「Hoàng Thị Café」も雰囲気が良く、おすすめです。
――ありがとうございます。本日は、山さんの作品に触れ、お話を伺う中で、特別な時間を過ごすことができました。本日はどうもありがとうございました!
こちらこそ、ありがとうございました。
ホーチミンでアートに触れよう
山さんの個展では、時間が止まったような、日常の小さなことを忘れて大きな流れに身を任せるような、不思議な時間を過ごすことができました。旅行とは非日常な時間ですし、普段アートに触れない方も、ホーチミン旅行の際にギャラリーを訪れてみてはいかがでしょうか。
山洋平さんの個展情報
YOHEI YAMA
Phonemenon÷(Time×Space)
会期:2019年6月28日~9月27日
月~水:要予約 木~土: 予約不要(10時~17時) 日:休
場所:VIN GALLERY (6 Le Van Mien, D. 2, Thao Dien)
山洋平さんおすすめのアートスポット
■Hoàng Thị Cafe(ホアン・チー・カフェ)
1st floor, 14 Tôn Thất Đạm, w.Nguyễn Thái Bình, d.1
営業時間:7~24時
https://www.facebook.com/hoangthichuhoa/
■Galerie Quynh(ギャラリー)
118 Nguyễn Văn Thủ, Đa Kao, District 1
営業時間:10~19時(月曜休)※要アポイントメント
■The Factory Contemporary Arts Centre(ギャラリー)
15 Nguyen U Di, Thao Dien Ward, District 2
アートセンター営業時間: 10~19時(月曜休)
レストラン・カフェ営業時間: 11~22時
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