【インタビュー】1000年の歴史の継承者。水上人形劇の演者を素顔を知る
2023年2月5日更新

1000年以上の歴史を持つと言われる水上人形劇は、現在ではベトナム観光の名物スポットへと変わりました。ベトナムの伝統や慣習、神話などを水上人形たちが面白おかしく表現してくれます。
今回インタビューをしたのは「アンさん(Mr.Huynh Tuan Anh)」男性、42歳。ホーチミンの1区、毎夜多くの旅行者が鑑賞に訪れるロンヴァン水上人形劇で働く水上人形の演者です。
簡単な自己紹介をお願いします

アンさん「アンと申します。出身はロンアン(ホーチミン郊外)ですが、子供のときにはもうホーチミンに両親とともに移り住みました。それから2009年に結婚して、いまは2人の子供に恵まれています」
筆者「この仕事に携わって何年目ですか?」
アンさん「何年目だろう……、そうですね、もうかれこれ18年目になるかな」
この仕事は世襲制と聞いたのですが
アンさん「そうですね。僕の場合は兄がいるので、兄から教えてもらいました。完全世襲制というわけではありませんが、基本原則はそうみたいですね」
筆者「水上人形の操作方法は外部に漏らしたらいけないとも聞きましたけど、本当ですか?」
アンさん「さあ、それはあまり聞かないですね。ただ、人形操作は一朝一夕では覚えられないので、仮に漏れてもさほど問題はないかと思いますけどね(笑)」
筆者「完全世襲制ではないということは、外からの希望者も受け入れているのですか?」
アンさん「もし強く希望すれば、それもありだと思いますよ。僕も幼少時代に水上人形劇に魅せられた一人ですからね。きっと他にもそういう人はいるかと思います」
水上人形と出会ったきっかけを教えてください

アンさん「父親も兄もこの仕事ですので、僕も子供のときから彼らの仕事ぶりを舞台袖から見学していました。もちろん水上人形自体も何百回と見ましたよ。でもね、不思議と飽きないんですよ。子供なんで人形たちがなにを表現しているのかは分からないですよ。でも、ただただ人形たちの動作に魅入ってしまっていたんです」
筆者「何歳のときに人形操作を学んだんですか?」
アンさん「14のときですね。これがベトナムの1000年以上続く伝統なんだと思ったら感慨深くなり、そこから興味を持つようになりました」
筆者「修行っていうんですかね。どのくらいの期間が勉強期間だったんですか?」
アンさん「そうですね。2年くらいかな。大人が本格的に修行すると5年以上かかるらしいのですが、僕は子供のときに学んだんで。やっぱり子供は呑み込みが早いようですね。ただ、実際舞台に上がったのは26歳のときです。それまでは人形操作以外のことを学んだり、学校に行ったりしていました。別の仕事もしたことはありますが、26の時にやっぱり水上人形で生きていこうと決めて、舞台に立つ決意をしました」
この仕事の大変なところは?

アンさん「ご想像の通り溜まりに立ってひたすら人形操作をするので、健康にいい環境とはいえませんよね。よく体調を壊す人もいます」
筆者「アンさんも体調を崩すことはあるんですか」
アンさん「ええ、もちろん。この仕事をやっているうちは仕方ないですね。ある程度は慣れますが、身体の不調はつきものです。でも、自分の体調がすぐれないときはすぐに他の人に代わってもらうことができます」
筆者「それは意外ですね」
アンさん「体調が悪いと人形操作にも著しく影響がでるので、管理会社側もそこらへんは気を遣ってくれているみたいです」
逆に仕事のやりがいを教えてください
アンさん「ロンヴァン水上人形劇場は17の演目で構成されています。ベトナムの慣習、伝統などを人形を通して分かりやすく外国人に伝えることができるんです。愛国心というわけではないですが、自分の国の歴史を外国人に知ってもらい、笑ってくれたり共感してくれたり、驚いたりしてくれるのはとても嬉しいことだし、そこにやりがいを感じることができます」
筆者「子供も多くいますよね。みんな楽しそうに見ているようでしたよ」
アンさん「ありがとうございます。僕も子供のときは意味が分からなかったんですから、外国人の子供たちは特に理解できないと思います。だからこそ見て楽しめるように人形操作にとても気を遣っています。子供たちから歓声が上がったり拍手が沸いたりすると、とても嬉しいものです」
アンさんの子供には引き継いでほしいと思っていますか?

アンさん「どうでしょうね。いまのところ、子供は水上人形劇と僕の仕事に興味を持ってくれているみたいです。でも将来は分からないですね(笑)。ただ、子供には自由に生きてほしいので、伝統だの世襲制だのにとらわれずに、自分で好きな仕事を見つけてほしいと思っています。……、まあ、引き継いでくれたら嬉しいですけどね」
世界中の旅行者の観光の定番になっていますが、そのことについては
アンさん「劇中の解説はベトナム語なので、外国人にとっては分からないところも多々あるかと思います。しかし、これはまごうことなきベトナムの伝統文化。その一端に触れてもらえる機会を提供できることについては誇りに感じています。また、この水上人形劇は北部発祥。それが南部のホーチミンで見ることができるというのも大切なことだし、時代の発展と文明開化を感じずにはいられませんね」
筆者「外国人旅行者がベトナムを知る博物館以外の貴重なスポットだと思います」
アンさん「昔はこの水上人形劇を一般人が見るのは非常に困難でした。しかし、現在はダナン(中部都市)でもホーチミンでも見られるし、ベトナム人だけではなく外国人も気軽に鑑賞できる観光スポット、エンターテイメントになりました。形はどうあれ、1000年以上続く歴史の伝達に携われるのは非常に光栄だと思っています。これからも外国人旅行者の方たちにも分かりやすく、それでいてユーモアを忘れずに水上人形に日々取り組んでいきたいと思います。また、意外かもしれませんが、実はベトナム人はほとんどの人が水上人形劇を見たことがありません。なので、今後はベトナム人にもたくさん見に来てほしいですね」
筆者「なるほど。本日は貴重なお時間ありがとうございました」
今宵は水上人形劇鑑賞でほっこりしてみてはいかが
アンさんが水上人形や仕事について語るとき、その眼差しは非常に力強く、何か“芯”のような真っ直ぐしたものを感じることができました。しかし、談話が終わると出入口の扉から、アンさんの子供が飛び出してきて「パパ早く帰ろうよ~」と。アンさんはそれを受けて優しく微笑み、子供を抱っこして扉の向こうに待つ奥様と一緒に帰っていきました。その背中は伝統を受け継ぐ職人であり、それでいて変哲のない父親そのものでもありました。
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