※この記事は、ホーチミン市を中心とした一般的な生活事情や現地で広く見られる暮らし方をもとに、2026年7月時点の情報を整理しています。地域や家庭によって生活スタイルは異なる場合があります。
「親離れしていない」と思われがち?
ベトナムを訪れた外国人の多くは、社会人になって何年も経っているのに、今も両親と暮らしている若者が少なくないことに驚きます。多くの国では、仕事に就いて生活が安定すると、親元を離れて暮らし始める人が少なくありません。こうした暮らし方は、大人として自立した一つの節目と受け止められています。ところがベトナムでは、それが誰にとっても当たり前の選択というわけではありません。
仕事や安定した収入があっても実家で暮らし続ける人は多くいます。結婚を機に家を出る人もいれば、仕事の都合や自分だけの生活空間を求めて一人暮らしを始める人もいます。なかには、自分で部屋を借りられる経済力があっても、あえて両親との同居を選ぶ人も少なくありません。
こうした暮らし方を見て、「ベトナムの若者はまだ自立していない」「家族に依存している」と感じる人もいます。しかし、それだけではベトナムの社会や文化を十分に理解した見方とは言えません。
多くのベトナムの家庭では、大人になったかどうかは親元を離れたかではなく、自分の生活に責任を持ち、自分自身のことをきちんと管理し、家族を支えられるかどうかが大切だと考えられています。
実際にホーチミン市では、平日の夕方になると仕事を終えた若者が家族と夕食を囲む光景を今でも多く見かけます。筆者自身もホーチミン市で飲食店や観光施設への取材を続ける中で、仕事帰りに家族と夕食を囲む若者や、休日に家族と買い物へ出かける姿を日常的に目にしてきました。現地で生活する人にとって、親と暮らすことは特別ではなく、ごく自然な暮らし方の一つであることを実感しています。
ベトナムでは、就職後も親と暮らすのがごく普通
この国では、社会人になってからも両親と同居を続ける若者は珍しくありません。ホーチミン市やハノイのような大都市だけでなく、多くの地域で見られる一般的な暮らし方です。
国によっては、一人暮らしを始めることが大人になるための通過点と考えられていますが、ベトナムでは必ずしもそうではありません。職場が遠い場合や結婚を機に生活を変える場合、あるいは自分だけの空間を持ちたいと感じたときに初めて実家を離れる人が多くいます。
多くのベトナムの家庭では、「自立=一人暮らし」という考え方は一般的ではありません。経済的に自立し、仕事にも主体的に取り組み、自分の人生に責任を持ちながら、家族と一緒に暮らす人も数多くいます。
収入を得るようになると、生活費を家に入れたり、家事を手伝ったり、必要なときに家族を支えたりするようになります。そのため、親との同居は「依存」ではなく、家族で支え合って暮らすこととして受け止められています。また、一つ屋根の下で暮らし続けることは、世代を超えた家族のつながりを大切にする方法でもあります。安定した収入があっても実家で暮らす人が多い背景には、こうした価値観があります。
家族という存在が何より大きい
ベトナムの若者が親と暮らし続ける理由を、経済的な事情だけで説明することはできません。最も大きな理由は、ベトナムの人々が家族をとても大切にしていることです。多くの家庭では、小さな頃から祖父母や親、子どもが同じ家で暮らし、一緒に食事をし、お互いを助け合う生活が当たり前です。そのため、大人になって働き始めても、そのまま家族と暮らすことをごく自然なこととして受け入れています。
「大人になったら家を出るべき」という考え方とは異なり、多くのベトナムの親は、子どもが就職したらすぐに独立することを期待していません。条件が許すのであれば、できるだけ長く家族が一緒に暮らせることを望む家庭も多くあります。その象徴とも言えるのが家族そろっての夕食です。仕事や学校を終えた後、できるだけ全員で食卓を囲もうとする家庭は今でも少なくありません。
食事の時間には、その日の仕事や学校であった出来事、何気ない日常の話を家族で共有します。こうした時間が、家族のつながりを日々育んでいます。実家で暮らし続ける若者が多いのは、便利だからという理由だけではありません。幼い頃から続いてきた家族との暮らしを大切にしたいという思いも大きく影響しています。これは依存ではなく、家族への愛情や文化に根ざした選択です。
経済的な事情も理由の一つ
文化的な背景に加え、経済的な事情も若者の住まい選びに影響しています。ホーチミン市やハノイのような大都市では、家賃や生活費は年々上昇傾向にあり、特にホーチミン市やハノイでは若い社会人にとって大きな負担になっています(2026年7月時点)。社会人になったばかりの人にとっては、家賃に加え、光熱費、食費、交通費などを支払うだけで、毎月の収入の大半がなくなってしまうこともあります。
文化的な背景に加え、経済的な事情も若者の住まい選びに影響しています。2026年7月時点では、ホーチミン市中心部のワンルームや1Kタイプの賃貸物件は、設備や立地によって月額およそ600万〜1,200万VND程度が一般的です。さらに光熱費や通信費、食費などを含めると、社会人になったばかりの若者にとっては大きな負担になることもあります。
賃貸物件を探す場合は、勤務先までの通勤時間や管理費、光熱費が家賃に含まれているかどうかも確認しておくと安心です。特に都市部では物件によって条件が大きく異なります。
そのため、実家で暮らし続けることで生活費の負担を抑え、将来のための貯蓄に回す人も多くいます。もちろん、親に頼り切っているわけではありません。収入が安定すると、生活費を家に入れたり、家計を支えたりする人がほとんどです。家庭内の支出を分担するケースも珍しくありません。
また、職場がそれほど遠くなければ、一人で暮らすためだけに新たに部屋を借りる必要性を感じない人もいます。その分のお金を貯蓄したり、住宅購入や結婚、自己投資といった将来の目標に充てたりすることを優先しています。経済的な事情は確かに理由の一つです。しかし、それだけで説明できるものではありません。経済状況やライフスタイル、家族を大切にする価値観が重なり合い、この選択につながっています。
もちろん、住む場所を選ぶ基準は人それぞれです。職場までの距離や通勤時間、家賃の予算、安全性などを比較したうえで、一人暮らしを選ぶ若者も少なくありません。
ベトナムの若者の暮らし方は少しずつ変化している
都市化が進み、ライフスタイルも変わる中で、以前より早い段階で実家を離れる若者も増えてきました。仕事の都合で職場の近くに住んだり、自分だけの時間や空間を大切にしたいと考えたりする人も増えています。アパートを借りたり、友人とルームシェアをしたりする暮らしも、特に大都市では珍しくなくなりました。
それでも、一人暮らしを始めたからといって家族との距離が遠くなるわけではありません。週末には実家へ帰って一緒に食事をしたり、旧正月(テト)や祝日に家族全員で集まったりする人が多くいます。暮らし方は変わっても、家族は今も大切な存在です。
変わってきているのは家族の価値そのものではなく、自分に合った生活を選ぶ若者が増えていることです。親と暮らすことも、一人暮らしをすることも、どちらも自然な選択として受け入れられています。大切なのは、それぞれが自分の人生に責任を持って暮らしていることです。
この習慣から見えるベトナムの暮らし
社会人になっても親と暮らし続ける若者が多いことは、現在のベトナム社会で広く見られる特徴の一つです。この背景には、家族を大切にする文化、経済的な事情、そして一人ひとりのライフスタイルなど、さまざまな要素があります。
一人暮らしを選ぶ若者は年々増えていますが、家族は今も変わらず大切な存在です。
親と一緒に暮らしていることを「自立できていない」と決めつけるのではなく、その人の価値観や生活環境に合った選択として捉えることが大切です。ベトナムを理解するうえで、知っておきたい暮らし方の一つです。
この記事で紹介した内容は、ベトナム国内で一般的に見られる生活習慣に加え、公的機関が公開している人口・社会・住宅関連の情報も参考にしています。
本記事では、ベトナム統計総局(GSO)が公表している人口・世帯に関する統計資料や、ベトナム政府ポータル、ホーチミン市人民委員会が公開している行政情報を参考にしながら、現地での取材内容とあわせて内容を確認しています。
関連する公的機関・参考情報
なお、住宅事情や生活費は地域や時期によって変動するため、本記事では2026年7月時点で公開されている情報をもとに記載しています。最新情報については各公的機関の公式サイトをご確認ください。
執筆・編集について
本記事は、ホーチミン市で日本人向けに観光・生活情報を発信している編集チームが、現地での取材内容や日常的な観察、公的機関が公開する情報をもとに作成しています。
編集部メモ
本記事は、ホーチミン市で日常的に見られる生活風景や現地での取材内容をもとに編集しています。家庭によって考え方や暮らし方は異なりますが、ここで紹介した内容は、多くのベトナム人に共通して見られる傾向をまとめたものです。
なお、本記事は特定の家庭に当てはまるものではなく、ホーチミン市をはじめとする都市部で比較的多く見られる傾向を紹介したものです。地域や世代、家庭環境によって考え方や暮らし方には違いがあります。

