ベトナム南部では、花柄や鮮やかな色の上下セットの服「ドーボ(đồ bộ)」を着た女性を見かけることがあります。
タイニンで育った私にとって、ドーボを着た女性の姿は、子どもの頃から見慣れたものでした。母や祖母だけではありません。近所の女性たちも、家の前で話しているときや、近くの店へ出かけるとき、市場へ行くときなどにドーボを着ていました。
「ドーボは楽だから、これで十分よ」。母や祖母から、そんな言葉を聞いたことも覚えています。
家で着ていた服のまま門を出て、近所の店まで歩いていく。買い物が終われば、そのまま家に戻る。子どもの頃の私には、その姿がとても普通でした。
子どもの頃、身近にあったドーボ
私が子どもの頃によく見ていたドーボは、上下が同じ生地や柄で作られたセットでした。無地のものもありましたが、記憶に残っているのは花柄のほうです。
大きな花が並んだものもあれば、小さな花がたくさん入ったものもありました。明るいピンクや赤、青など、色もさまざまです。
母と市場へ行くと、私はすぐに服を買うのではなく、店先に並んだドーボを眺めていました。ハンガーに掛かった服を見たり、上下を広げてもらったりしながら、同じ花柄でも色や花の大きさが違うことを見比べていました。
市場では、花柄のドーボを「đồ bông」と呼ぶ声を聞くこともありました。子どもの私は、その言葉について考えることもなく、母について市場を歩きながら服を見ていました。
上下を広げると、柄の出方がよく分かります。小さな布地だけで見ると普通に見える柄でも、上着とズボンを合わせると急に華やかに見えるものもありました。
母が生地を手に取っている横で、私も布に触ってみることがありました。薄い生地は軽く感じ、少し柔らかい生地は触ったときの感じが違います。子どもの頃の私は素材の名前までは知りませんでしたが、触ったときの違いはなんとなく覚えています。
今思えば、私は子どもの頃から、同じドーボでも柄や色、触った感じが少しずつ違うことを見るのが好きだったのだと思います。
淡いピンクのドーボ
私自身もドーボを着ていました。特に覚えているのは、淡いパステルピンクの上下セットです。
襟元には小さなレースが付いていました。派手な花柄ではありませんでしたが、その少しだけ飾りが入った感じが気に入っていました。
その服を着たまま家の中で過ごし、家の前へ出ることもありました。近所へ行く用事があっても、別の服に着替えようとはあまり思いませんでした。
近所の店まで何かを買いに行くときも、家を出て、歩いて店へ行き、買い物をして戻ってくる。それだけなら、ドーボのままで十分でした。
私の周りにも、色や柄の違うドーボを着ている女性がいました。鮮やかな花柄を着る人もいれば、落ち着いた色を選ぶ人もいました。
子どもの頃は、それを「ベトナムの服装」として見ていたわけではありません。ただ、母も祖母も近所の人も着ている服。そして自分も着る服。それがドーボでした。
ドーボのまま出かけた場所
私がドーボを着たまま出かけていたのは、主に家の近くでした。
近所の小さな店、市場、家の周り。ちょっとした用事なら、そのまま出かけます。
きちんとした服装が必要な場所へ行くときは、別の服に着替えます。ドーボでどこへでも行くわけではありません。
ただ、私の中では「家の中だからドーボ」「外へ出るから別の服」とはっきり分かれていませんでした。
家から近所へ少し出るくらいなら、今着ているドーボのままでいい。子どもの頃の私にとっては、それだけのことでした。
母や祖母も同じようにしていたので、それを見て育った私にとっては、ごく自然なことだったのだと思います。
私がドーボを選ぶとき
ドーボを買うとき、私は柄だけを見ていたわけではありません。
まず、生地を触ります。薄すぎないか、重くないか、肌に当たったときに暑く感じないかを確かめます。
少し伸びる生地なら、腕や脚を動かしたときの感じも気になります。普段着として着るので、私は体にぴったりしすぎるものより、少し余裕のあるものを選ぶほうが好きでした。
花柄の場合は、上下を広げて見たときのバランスも見ます。
上だけ、下だけを見ると気にならない柄でも、上下を合わせると印象が変わることがあります。私は店先で服を広げて、全体を見てから選ぶことが多かったです。
もう一つ気にしていたのが、ウエストの部分です。普段着として何度も着るので、きつすぎないか、動いたときに苦しくないかを確かめます。上下のサイズが別々に選べない場合は、セット全体のサイズ感を見る必要があります。
オンラインで選ぶ場合は、ここが少し難しくなります。写真では生地の厚さや伸び方までは分かりにくいので、サイズ表を手持ちの服と比べます。「フリーサイズ」と書かれていても、それだけで自分に合うとは考えません。
実際に手に取れる店なら、生地を触って、縫い目を見て、ウエストの伸び方を確かめてから決めるほうが安心でした。
今のドーボの値段を調べて分かったこと
子どもの頃は、母と一緒に市場を歩きながら服を選んでいました。今はスマートフォンからもドーボを探せるので、現在の販売状況を知るために、2026年10月14日に複数のオンライン販売ページを確認しました。
この日に確認した女性用の上下セットには、5万ドン台のものから10万ドンを超えるもの、20万ドン前後の商品までありました。たとえば、現在確認できるオンライン販売ページでは、ある女性用セットが小売169,000ドン、卸売99,000ドンと表示されています。また、別の販売ページではセール価格が表示されている商品もあります。
こうした価格を見るとき、私は表示された数字だけを比べないようにしています。小売か卸売か、何着からその価格になるのか、セール価格なのか、どのようなセットなのかまで確認します。
実際、同じ「ドーボ」として販売されていても、短パンのセット、長ズボンのセット、薄手のもの、コットン素材の商品など、条件はそれぞれ違います。そのため、今回確認した価格をそのまま「ドーボの相場」とすることはできません。
私が今回見た価格は、2026年10月14日に確認できた販売ページの一例です。価格や在庫、セールの有無、販売条件は変わる可能性があります。購入するときは、この記事に書かれている金額だけで判断せず、販売ページに表示されている最新の価格と条件を確認してください。
特にオンラインショップでは、セールが終了したり、在庫状況によって表示価格が変わったりすることがあります。卸売の場合も、購入数量によって価格が変わる場合があります。
そのため、この記事では今後も価格情報を更新する際に、確認日、販売ページ、価格条件をセットで確認するようにしています。古い価格を現在の価格として残さないためです。
ホーチミンで実際にドーボを見てみたい場合、タンディン市場も候補の一つです。現在のホーチミン観光情報ガイドの市場案内では、タンディン市場は布を多く扱う市場として紹介され、営業時間の目安は6時から18時ごろとされています。店舗によって営業時間が異なることも明記されています。
この営業時間についても、固定された営業時間として考えないほうが安全です。市場の公式案内として掲載されている情報でも、店舗ごとの違いや臨時休業などがあるため、訪問する直前に最新情報を確認してください。
市場へ行く場合は、最初から一つの店に決めるより、いくつかの店先を見て、生地や柄、値段を比べるほうが選びやすいです。私自身もドーボを選ぶときは、値段だけを見て決めるのではなく、実際に生地を触ってから選んでいました。
現在の市場情報と、オンラインショップの販売ページは、それぞれ別の情報として確認しています。市場の営業時間をオンラインショップの情報から判断したり、オンラインの価格を市場の店頭価格だと考えたりしないようにしています。
タイニンで探す場合も、私は特定の一店舗だけを目的にするより、市場や衣料品店を歩いて、同じような柄や生地の商品を比べるほうが選びやすいと思います。
私が今ドーボを買うなら、まず販売価格を見て、その次に生地、サイズ、購入数量の条件を確認します。オンラインなら、写真だけでなくサイズ表と商品説明まで読みます。セール価格の場合は、通常価格だけを見て判断しません。
実店舗なら、値段を聞いたあとに生地を触り、縫い目やウエストを見ます。市場のように似た商品が並んでいる場所なら、最初の一着ですぐ決めず、何軒か見てから比べるほうが選びやすいです。
価格情報は変わるものなので、この記事では確認日を残しています。次回更新するときも、その時点で販売されているページを確認してから価格を差し替える予定です。
暑い日にも、そのまま着ていた
タイニンで暮らしていた頃、暑い日にどんな服を着るかは、子どもの私にも身近なことでした。
暑い日に厚い服を着ると、それだけで動きにくく感じます。外で遊んだり、家の周りを歩いたりするときには、軽くて体を締め付けない服のほうが楽でした。
ベトナム国家水文気象予報センター(NCHMF)が2026年10月に公開した月間予報では、南部の10月の降雨量は平年より少なくなる傾向が示されています。現在の南部の気候を確認するときには、こうした公的な気象情報も参考になります。
こうした情報を今になって見ると、子どもの頃に感じていた暑さも、その土地の気候の中にあったものだと分かります。ただ、私がドーボを着ていた理由を暑さだけで説明することはできません。
家で着ていた服を、そのまま近所でも着られること。家の門を出て、路地を歩いて、店に寄る。近所へ行くだけなら、わざわざ服を替える必要もない。
私にとっては、暑い日に着やすかったことと、着替えずに動けたこと。その両方がドーボの便利さでした。
日本で暮らしてから思い出したこと
日本で暮らすようになってから、私はタイニンで着ていたドーボのことを思い出すことが増えました。
日本で生活していると、家で過ごすときの服と、外へ出るときの服を着替える場面があります。私自身も、日本で暮らすうちに、家の中で着る服と外出するときの服を分けることを意識するようになりました。
そのときに思い出したのが、淡いピンクのドーボです。
あの頃は、その服を着たまま家の外へ出ることに何も感じていませんでした。近所の店へ行く。市場へ行く。家へ戻る。それで終わりです。
今になって考えると、私にとってドーボは「家で着る服」というより、家の近くで生活するときにそのまま着ていられる普段着でした。
ただ、これはタイニンで育った私自身の記憶です。同じベトナム南部でも、家庭や地域によってドーボを着る場面は違っていたと思います。
この記事を書いた私について
この記事は、ホーチミン観光情報ガイドでベトナムの現地情報を取材・執筆している私が、タイニンで育った頃の経験をもとに書いています。
ホーチミン観光情報ガイドの筆者プロフィールでは、ベトナム国内を取材して回り、ローカルな楽しみ方から旅行者向けの定番スポットまで幅広く取材していることを紹介しています。現在公開されている筆者ページには、これまでの記事も掲載されています。
今回のドーボについても、子どもの頃の記憶だけで現在の情報を書いたのではありません。2026年10月14日にオンライン販売ページを確認し、現在の市場情報や、過去に同じメディアで紹介された市場・ドーボ関連の記事も見比べています。
価格については、販売ページに表示された金額を確認し、小売・卸売やセールの条件を分けて見ています。市場については、現在掲載されている営業時間を確認したうえで、店舗によって時間が異なることも記載しています。
また、気候についての客観的な情報は、ベトナム国家水文気象予報センター(NCHMF)の2026年10月の月間予報を参考にしています。NCHMFの予報では、2026年10月の南部の降雨量は平年より5~20%少なくなる傾向が示されています。
ただし、私自身のドーボについての知識は、専門家として研究したものではありません。タイニンで育った頃に母や祖母と市場へ行った経験、実際にドーボを着て近所へ出かけた記憶、そして現在の販売情報を調べた結果をもとにしています。
そのため、この記事では子どもの頃の記憶と、現在確認できる販売情報を分けて書いています。ドーボについて、すべての地域や家庭に当てはまることを説明する記事ではなく、私自身の経験を出発点にしています。
価格については確認した日付を明記し、販売状況が変わる可能性がある情報については、その時点で確認できる販売ページを基準にしています。市場の営業時間についても、掲載されている時間を固定的な情報として扱わず、店舗ごとの差や変更の可能性を記載しています。
公的な気象情報や現在の販売情報を確認しながらも、子どもの頃に私が見て、着て、感じていたドーボについては、あくまで自分自身の記憶として書いています。
今でも花柄を見ると思い出すこと
子どもの頃は、ドーボについて特別に考えたことはありませんでした。
母が着ている。祖母も着ている。近所の女性も着ている。そして、自分も着ている。
それだけの服でした。
でも、大人になってから思い返すと、ドーボを着ていた人たちの姿と一緒に、当時の風景まで浮かんできます。庭を掃いている人、市場へ向かう人、家の前で話している人。
母の横で市場の服を眺めていたことや、淡いピンクのドーボを着て家の門を出たことも覚えています。
そして、淡いピンクのドーボを着て、私自身もその中にいたこと。
今でも花柄の上下セットを見かけると、まず思い出すのは服の名前や柄ではありません。タイニンで過ごしていた頃の、家の周りの風景です。

