ホーチミン市南部のカンザー(Cần Giờ)では、毎年、海の安全と漁業の繁栄を願う伝統行事「Nghinh Ông(ギンオン祭り)」が行われます。2026年も、カンザーの漁民文化と深く結びついた「Lễ hội truyền thống Nghinh Ông Thành phố Hồ Chí Minh(ホーチミン市伝統ギンオン祭り)」が開催される予定です。
ギンオン祭りは、ベトナムの沿岸地域で信仰されてきた鯨を祀り、海で働く人々の無事や豊漁を願う祭りです。単なる観光イベントではなく、地域の人々が代々受け継いできた海の信仰や、漁村の生活文化を知る機会でもあります。
この記事では、ギンオン祭りの由来や鯨が信仰の対象となった背景、ベトナム各地で使われる名称、そして2026年にカンザーで開催されるギンオン・カンジオ祭りの基本情報や参加時の注意点を紹介します。
ホーチミン市南部に位置するカンザー。海やマングローブ林が広がる、漁業と深く関わってきた地域。
ギンオン祭りとは?
カンザーの海で行われるギンオン祭り。色とりどりの旗で飾られた船が海上を進む。
「Nghinh Ông(ギンオン)」は、ベトナムの沿岸地域で行われる、鯨を祀る伝統的な信仰行事です。ベトナム語の「Nghinh」には「迎える」「出迎える」という意味があり、「Ông」は鯨に対する敬称として使われています。
ベトナムの漁民の間では、鯨は海で遭難した人を助けたり、船を安全な場所へ導いたりする神聖な存在と考えられてきました。そのため、鯨を「Nam Hải Thần(タン・ナム・ハイ)」、つまり南海の神として敬い、漁の安全や家族の平穏を祈る習慣が広まりました。
ギンオン祭りでは、鯨を祀る場所での祭礼、供物を捧げる儀式、行列、伝統芸能などが行われます。地域によって内容は異なりますが、海への感謝を表し、漁民の安全と地域の繁栄を願うという点は共通しています。
ベトナム各地で異なるギンオン祭りの呼び方
ベトナムの沿岸地域では、鯨を祀る信仰や関連する祭りに、地域や儀礼の形式によってさまざまな名称が使われています。たとえば、「Nghinh Ông(ギンオン)」のほか、「Lễ Cầu Ngư(カウグー祭り)」「lễ cúng cá Ông(鯨を祀る儀礼)」「lễ rước Ông(鯨を迎える儀礼)」「lễ Nghinh Ông Thủy tướng(ギンオン・トゥイ・トゥオン)」などがあります。
名称や儀礼の内容は地域によって異なりますが、共通しているのは、鯨を神聖な存在として敬い、海で働く人々の安全や平穏を願う信仰と結びついている点です。
ベトナムで鯨が海の守り神とされる理由
鯨は漁民を守る神として信仰されてきた
ベトナム中部から南部にかけての沿岸地域では、鯨は漁民を守る存在として長く信仰されてきました。海が荒れた際に鯨が船を助けた、遭難した漁民を岸へ導いたといった伝承が各地に残されており、鯨は単なる海の生き物ではなく、海上の安全を守る神として受け止められています。
地域によっては、鯨を「Nam Hải Tướng quân(ナム・ハイ・トゥオン・クアン)」と呼ぶこともあります。これは、海を守る神として鯨を敬う呼び方の一つです。
漁民にとって海は生活の場であると同時に、天候や波、潮の流れによって命が左右される場所でもあります。そのため、鯨への信仰には、海に対する畏敬の念や、自然と共に生きる人々の願いが込められています。
鯨の死を悼み、丁寧に祀る習慣
ベトナムの沿岸地域には、海岸に打ち上げられた鯨や、海上で見つかった鯨の死骸を丁寧に葬る習慣があります。鯨を「Ông」と呼ぶ地域では、鯨の死を身近な人の死と同じように受け止め、葬儀を行い、遺骸を埋葬します。一定期間が経過した後に骨を取り出して清め、専用の場所に安置することもあります。
このようにして祀られた鯨の骨は、地域の信仰施設で大切に保管されています。漁民にとっては、鯨の骨そのものが神聖な存在であり、海の守護神を身近に感じる象徴でもあります。
ランオン、ディンオンなど、ベトナム各地にある鯨を祀る場所
鯨を祀る施設は、ベトナムの沿岸部に広く分布しています。地域によって「Lăng Ông(ランオン)」「Dinh Ông(ディンオン)」「Miếu Hải Thần(ミエウ・ハイ・タン)」など、異なる名称で呼ばれています。「Lăng Ông」は、鯨の遺骨や位牌などを祀る施設を指すことが多く、「Dinh Ông」は鯨を神として祀る廟や祭祀施設を意味します。また、「Miếu Hải Thần」は海の神を祀る場所という意味です。
カンザーのランオン・トゥイ・トゥオン。鯨を海の守護神として祀る地域の信仰施設。
ホーチミン市のカンザーでは、鯨を祀る場所として「Lăng Ông Thủy Tướng(ランオン・トゥイ・トゥオン)」が知られています。ここでは、海の守護神とされる鯨が祀られ、地域の漁民や住民によって祭礼が受け継がれています。こうした施設は、単に宗教的な場所というだけではありません。地域の歴史や漁業文化、海と共に暮らしてきた人々の価値観を伝える文化的な場所でもあります。
ギンオン祭りはベトナムのどの地域で行われている?
ギンオン祭りや、鯨を祀る関連行事は、ベトナム中部から南部にかけての沿岸地域を中心に行われています。名称や開催時期、儀式の内容は地域ごとに異なります。
カンザー(Cần Giờ)、ホーチミン市
ホーチミン市のカンザーは、市内中心部から離れた海とマングローブの地域です。漁業や水産業と関わりの深い土地であり、鯨を海の守護神として祀る信仰が現在も残っています。カンザーでは、毎年、旧暦8月を中心にギンオン祭りが行われます。祭りの期間には、鯨を祀る施設での儀式や供物、行列、地域の文化活動などが行われます。カンザーのギンオン祭りは、ホーチミン市で行われる代表的な伝統行事の一つです。都市部の観光地とは異なる、海辺の地域文化に触れられる点が特徴です。
ブンタウ (Vũng Tàu)
ブンタウ(Vũng Tàu)でも、鯨を祀る信仰が根付いています。代表的な行事の一つが「Lễ hội Nghinh Ông Thắng Tam(ギンオン・タンタム祭り)」です。この祭りは、ブンタウの「Lăng Ông Nam Hải(ランオン・ナム・ハイ)」など、鯨を祀る施設と関わりの深い行事です。海上の平安や漁業の繁栄を願う儀式が行われ、地域の伝統文化を伝える祭りとして知られています。
中部・南部の沿岸地域
ギンオン祭りに関連する行事は、ベトナム中部や南部のさまざまな沿岸地域でも行われています。たとえば、ビンディン省、フーイエン省、カインホア省、クアンナム省、バリア・ブンタウ省、ティエンザン省などでは、鯨を祀る儀式や「Lễ Cầu Ngư(カウグー祭り)」が行われています。地域によっては、鯨の骨を祀る施設を中心に祭礼が行われたり、海上での行列や船の儀式が行われたりします。名称は異なっていても、海の安全と豊漁を願うという目的は共通しています。
ギンオン・カンジオ祭り2026はいつ開催される?
2026年のカンザーでは、「Lễ hội truyền thống Nghinh Ông Thành phố Hồ Chí Minh(ホーチミン市伝統ギンオン祭り)」が開催される予定です。
現時点で公表されている計画によると、開催期間は以下のとおりです。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント名 | Lễ hội truyền thống Nghinh Ông Thành phố Hồ Chí Minh |
| 日本語での呼び方 | ギンオン・カンジオ祭り |
| 開催日 | 2026年9月23日〜25日 |
| 旧暦 | 2026年旧暦8月13日〜15日 |
| 開催地域 | カンザー(Cần Giờ)、ホーチミン市 |
| 主なテーマ | 鯨への信仰、海上安全、豊漁、地域文化の継承 |
| 主な会場 | Lăng Ông Thủy Tướng(ランオン・トゥイ・トゥオン)周辺など |
ただし、祭りの具体的なプログラム、開始時間、各儀式の開催場所については、今後発表される正式な案内によって変更される可能性があります。
また、過去の情報では異なる開催日が紹介されている場合もあるため、訪問前にはホーチミン市当局やカンザー地区の公式発表を確認することが大切です。
ギンオン・カンジオ祭りではどのような儀式や活動が行われる?
ギンオン祭りで行われる伝統的な行列。太鼓や衣装を用いた儀礼も祭りの一部となっている。
ギンオン祭りの内容は年や地域によって異なりますが、一般的には、鯨を祀る祭礼を中心に、行列、供物、伝統芸能、地域の文化活動などが行われます。過去に紹介されたカンザーのギンオン祭りのプログラムでは、鯨を迎える儀式、祭壇での礼拝、供物を捧げる儀式、伝統的な芸能などが行われています。
1. 鯨を迎える儀式
「Nghinh Ông」という名前のとおり、祭りでは鯨を迎える意味を持つ儀式が重要な位置を占めます。
地域や年によって具体的な形式は異なりますが、海や鯨に敬意を示し、漁民の安全と地域の平穏を願うものです。
2. 祭壇での礼拝と供物
鯨を祀る施設では、線香を焚いたり、花や果物、料理などの供物を捧げたりする儀式が行われます。
これらは、鯨への感謝を表すとともに、海で働く人々の無事、家族の健康、漁業の繁栄などを祈るためのものです。
3. 行列や伝統芸能
祭りの期間には、行列や伝統芸能が行われることもあります。地域の人々が参加する行列は、信仰行事としての意味だけでなく、地域のつながりを確認する場にもなっています。
また、伝統的な音楽や舞踊、獅子舞などが披露される場合もあります。ただし、開催年によって内容が異なるため、具体的な演目については当日の公式プログラムを確認してください。
ギンオン・カンジオ祭りを訪れる際の注意点
ギンオン・カンジオ祭りは、観光客向けに作られたショーではなく、地域の人々が大切にしている信仰行事です。見学する際は、祭りを観光コンテンツとして消費するだけでなく、地域の文化や儀式に配慮する必要があります。
1. 信仰空間と儀式を尊重する
祭礼が行われている場所では、大声で話したり、儀式の進行を妨げたりしないようにしましょう。
立ち入りが制限されている場所や、関係者のみが入れる区域には入らず、案内や現地スタッフの指示に従うことが大切です。
2. 写真撮影の前に確認する
祭りでは写真や動画を撮影できる場面もありますが、すべての儀式や参列者を自由に撮影できるとは限りません。
特に、祭壇での儀式や祈りを捧げている人を撮影する場合は、事前に確認するか、周囲の状況を見て判断してください。フラッシュ撮影や、儀式の近くでの長時間の撮影は避けたほうが安心です。
3. 祀られている場所では服装に配慮する
鯨を祀る廟や祭祀施設を訪れる場合は、露出の多い服装を避け、落ち着いた服装を選びましょう。
暑い時期でも、肩や膝が大きく露出する服装より、薄手のシャツや長めのパンツ、スカートなどが適しています。
ギンオン祭りとカンザー観光を組み合わせるのもおすすめ
ギンオン・カンジオ祭りを訪れる場合は、祭りだけでなく、カンザーの自然や地域の観光スポットと組み合わせると、より土地の特徴を理解しやすくなります。
カンザーは、ホーチミン市中心部とは異なり、マングローブ林、海辺、水産市場、漁港などが見られる地域です。市内のカフェやショッピングエリアとは違う、海と共に暮らす人々の日常を感じられます。
たとえば、祭りの前後にカンザーの海辺を訪れたり、地元の海産物を味わったり、マングローブ地域の自然を見学したりすることで、ギンオン祭りが生まれた背景をより身近に感じられます。
ただし、祭りの期間中は通常よりも道路が混雑したり、会場周辺の交通規制が行われたりする可能性があります。中心部から日帰りで訪れる場合は、移動時間に余裕を持って計画することが必要です。
出発前に確認しておきたいこと
ギンオン・カンジオ祭りを訪れる前には、次の情報を確認しておくと安心です。
- 開催日と開催時間
- 各儀式の開始時刻
- 主な会場と入場可能な区域
- 交通規制や臨時の通行ルート
- ホーチミン市中心部からカンザーまでの移動時間
- 雨天時の開催状況
- 写真撮影や立ち入りに関する現地ルール
- 祭り当日の天候と道路状況
特にカンザーはホーチミン市中心部から距離があるため、当日の交通状況によって移動時間が変わります。バス、車、配車アプリなど、利用する交通手段をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。また、雨季のホーチミンでは、短時間に強い雨が降ることがあります。屋外で行われる行事を見学する場合は、雨具や歩きやすい靴を準備しておくと安心です。
ギンオン祭りは、ホーチミンに残る海の文化
ギンオン・カンジオ祭りは、ホーチミン市で開催される伝統行事の一つですが、その背景には、海と共に暮らしてきたカンザーの人々の歴史があります。
鯨を海の守護神として敬い、漁民の安全や豊漁を願う信仰は、ベトナムの沿岸地域で長く受け継がれてきました。ギンオン祭りでは、祭礼や行列を見るだけでなく、海に対する感謝や自然への畏敬、地域の人々のつながりにも目を向けることができます。
ホーチミン市中心部の観光とは異なる一面を知りたい人にとって、カンザーは興味深い場所です。2026年のギンオン・カンジオ祭りを訪れる際は、最新の公式情報を確認しながら、地域の信仰と文化を尊重して見学しましょう。
この記事を書いた人
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