ベトナムの月餅職人とは?ホーチミンで受け継がれる伝統の味
ベトナムでは、中秋節(Tết Trung Thu)が近づくと、街のあちこちで月餅(バイン・チュン・トゥー)が販売されます。デパートやショッピングモールには高級感のあるギフトボックスが並ぶ一方、チョロン(Chợ Lớn)などのローカルエリアでは、昔ながらの製法を守りながら家族で月餅を作り続けている小さな店もあります。
私自身、ベトナムの月餅を見ると、中秋節が近づいてきたことを実感します。特に昔ながらの月餅は、大手ブランドの商品とは違った素朴な雰囲気があり、店先に並んでいるだけでも季節を感じられます。今回は、ベトナムの月餅職人の仕事の特徴と、ホーチミンで昔ながらの月餅を楽しめるローカルな店をご紹介します。
ベトナムの月餅作りは何が特別?
中秋節の時期だけ忙しくなる「季節の仕事」
月餅作りの大きな特徴の一つは、季節性が強いことです。中秋節が近づくと、工房では一気に製造が始まり、店によっては注文に合わせて必要な分だけ作るところもあります。特に家族経営の小さな工房では、大量生産を行う大手メーカーとは違い、家族や少人数の職人で一つひとつ作っている店もあります。
実際にこうした店を訪れると、店先に並んだ完成品だけでなく、奥で作業している職人の姿や、焼き上がったばかりの月餅の香りから、普段とは違う「中秋節前の街」を感じることができます。月餅作りが一年の中でも特に忙しい時期に集中するからこそ、この時期ならではの活気を見ることができるのも魅力です。
一つの月餅ができるまでに多くの工程がある
月餅は、単に生地と餡を混ぜて焼くだけではありません。生地を作り、餡を準備し、決められた大きさに分け、餡を生地で包み、型に入れて模様をつけ、最後に焼き上げます。特に手作りの場合は、同じ分量で作っていても気温や湿度によって生地の状態が変わるため、職人がその日の状態を見ながら調整することもあります。
実際に作る工程を想像してみると、一つの月餅が完成するまでにかなり多くの手作業があることが分かります。完成した月餅だけを見るときれいな形をしていて簡単そうに見えますが、均一な大きさに分けたり、餡を包んだりする作業には経験が必要です。特に昔ながらの店では、このような技術が家族の中で受け継がれているところもあります。
月餅の模様にも職人の技術が表れる
月餅の表面に描かれた花や文字などの模様も、月餅の魅力の一つです。生地を専用の型に入れて押すことで、美しい模様を作ります。伝統的な型には花や縁起の良い文字などが使われることが多く、月餅を見るだけでもベトナムの中秋節らしさを感じられます。
個人的に面白いと感じるのは、同じような材料を使っていても、型や模様によって月餅の印象が大きく変わることです。力が強すぎれば形が崩れ、弱すぎれば模様がきれいに出ません。きれいな模様を保ちながら焼き上げるためには、道具だけでなく職人の感覚も重要なのだと感じます。
月餅の中にはどんな餡が入っている?
ベトナムの月餅には、緑豆、蓮の実、ココナッツ、黒ゴマなど、さまざまな餡があります。特に「thập cẩm」と呼ばれるミックス餡は、ナッツや肉など複数の具材を組み合わせたもので、甘いだけではなく、食感や塩気も楽しめるのが特徴です。また、塩漬けしたアヒルの卵黄を餡の中に入れた月餅も人気があります。
初めてベトナムの月餅を食べる人にとっては、甘い餡の中に塩気のある卵黄が入っていることに驚くかもしれません。私もベトナムの月餅を食べるときは、最初の一口よりも、少しずつ食べながら餡と卵黄の味が混ざっていくところにベトナムらしさを感じます。一個がかなりボリュームのある商品もあるので、家族や友人と切り分けて食べるのもおすすめです。
チョロンには家族で受け継ぐ月餅の店がある
ホーチミンで昔ながらの月餅文化を感じたいなら、チョロン周辺がおすすめです。チョロンは華人コミュニティとともに発展してきたエリアで、現在も昔から続く中華菓子店が残っています。大きなチェーン店とは違い、家族で長年店を続けているところもあり、店そのものに歴史を感じられるのが魅力です。
実際にチョロンを歩いてみると、観光地として整えられた場所とは違い、地元の人が普段利用しているお店や市場が多く、街の日常を感じられます。中秋節の時期には店頭に月餅が並び、普段よりも華やかな雰囲気になります。月餅を買うだけでなく、周辺の街並みや食文化も一緒に楽しめるのが、チョロンならではの面白さです。
ホーチミンで昔ながらの月餅を買える店
東興園(Đông Hưng Viên)
住所:176 Bãi Sậy, phường Bình Tiên, Hồ Chí Minh
営業時間の目安:7:00~21:00
価格の目安:約20,000~200,000ドン
更新日:2026年9月18日
東興園(Đông Hưng Viên)は、チョロンで長く続く老舗の一つです。1954年創業とされ、家族で受け継がれてきた月餅を販売しています。伝統的な月餅だけでなく、子ども向けのかわいらしいデザインの商品もあり、昔ながらの味を残しながら現在のニーズにも合わせています。
ここで特に興味深いのは、単に「有名な月餅を買う」というより、チョロンの街を歩きながら地元の人々が利用する老舗を訪ねられることです。中秋節の時期に店頭へ行くと、月餅が並ぶことで普段とは違った季節感を感じられます。営業時間や商品は中秋節シーズンに変わる可能性があるため、訪問前の確認がおすすめです。
南越(Nam Việt)
住所:22A Ngô Quyền, phường An Đông, Hồ Chí Minh
営業時間の目安:7:30~21:00
価格:商品によって異なります
更新日:2026年9月18日
南越(Nam Việt)もチョロン周辺で知られている家族経営の月餅店です。家族が1970年代後半から菓子作りに携わり、1990年代初めに現在の店を始めたと紹介されています。大手メーカーのように全国的な広告で知られる店ではありませんが、家族の歴史とともに続いてきたローカルな店だからこそ、地域の食文化を身近に感じることができます。
個人的には、こうした小さな店を訪れることは、ベトナムの「日常」を知るきっかけになると思います。観光客向けの商品を見るだけではなく、地元の人がどんな店で月餅を買っているのかを見ることで、中秋節がベトナム人にとってどのような行事なのかをより身近に感じられます。
キム・タン(Kim Tân - KiTa)
住所:379 Phạm Văn Bạch, phường Tân Sơn, Hồ Chí Minh
価格:伝統的な焼き月餅は68,000ドン~
更新日:2026年9月18日
キム・タン(Kim Tân - KiTa)は1979年に始まり、3世代にわたって受け継がれている月餅ブランドです。伝統的な焼き月餅のほか、ベジタリアン向けの商品やギフトボックスなども展開しています。昔ながらの製法を大切にしながら、現代の好みに合わせた商品も取り入れている点が特徴です。
長い歴史を持つ一方で、新しい商品にも挑戦しているため、「昔ながらの月餅」と「現在の月餅」の両方を見てみたい人におすすめです。特に家族で受け継がれてきたブランドの歴史を知ってから月餅を食べると、単なる季節のお菓子とは少し違った印象を持つかもしれません。
家族で作る月餅には「昔の味」が残っている
ベトナムの月餅文化で特に興味深いのは、レシピや製法だけでなく、「家族の味」そのものが受け継がれていることです。長年続く小さな工房では、親から子へ、子から孫へと作り方が伝えられてきました。そのため、同じ月餅という名前でも、店によって餡の味や生地の食感が少しずつ違います。
私がこうしたローカルな月餅に魅力を感じるのは、完成した商品だけでなく、その背景にある家族の歴史まで一緒に楽しめるからです。大手ブランドの月餅はパッケージも華やかで選びやすい一方、小さな店には「昔からこの味を作ってきた」というストーリーがあります。月餅を食べながら、その店が何十年も地域の人々に愛されてきたことを想像すると、より特別な味に感じられます。
月餅は「食べるもの」だけではない
ベトナムでは、中秋節に月餅を家族や友人、仕事関係の人に贈る習慣があります。そのため、月餅は季節のお菓子であると同時に、大切な人へ気持ちを伝える贈り物でもあります。大手ブランドでは美しいギフトボックスが多く、小さな家族経営の店では昔ながらのシンプルな包装を見ることもできます。
実際に中秋節の時期に街を歩くと、月餅を持って歩いている人や、家族用にいくつか購入している人を見かけることがあります。月餅そのものだけでなく、「誰と食べるか」「誰に贈るか」という部分まで含めて中秋節の文化になっているところが、ベトナムの月餅の面白いところだと思います。
月餅を食べるならお茶と一緒に
月餅は甘さがしっかりしているものも多いため、ベトナムではお茶と一緒に楽しむことがあります。温かいお茶と月餅を組み合わせると、口の中の甘さが少し落ち着き、餡やナッツの香りも感じやすくなります。
個人的には、一人で一個を食べるよりも、家族や友人と切り分けて少しずつ食べるほうが、ベトナムの中秋節らしさを感じやすいと思います。異なる餡を何種類か買って、みんなで味を比べてみるのもおすすめです。甘い餡、塩気のある餡、卵黄入りなどを食べ比べると、ベトナムの月餅の多様さがよく分かります。
ホーチミンで月餅を買うならどう移動する?
チョロン周辺の月餅店へ行く場合、中心部からGrabCarやタクシーを利用すると便利です。特に複数の月餅を購入する場合は、車のほうが持ち運びしやすく安心です。GrabBikeは渋滞を避けやすいというメリットがありますが、月餅の箱を持って移動する場合は少し不便に感じるかもしれません。
また、チョロンで月餅を買うなら、買い物だけで終わらせず、周辺の市場や中華系の街並みも一緒に散策するのがおすすめです。中秋節の時期ならランタンが並ぶ場所もあり、月餅と合わせて季節の雰囲気を楽しめます。暑い時間帯を避けて、夕方から夜にかけて訪れると街歩きもしやすくなります。
月餅を買うときの注意点
月餅は商品によって賞味期限や保存方法が異なるため、購入時に確認しましょう。特に手作りの月餅は大量生産の商品と賞味期限が異なる場合があります。また、卵、ナッツ、肉類などを使用している商品もあるため、アレルギーがある場合はスタッフに確認することをおすすめします。
日本へ持ち帰る場合は、商品の原材料や賞味期限だけでなく、日本への食品持ち込みに関する最新の規定も確認してください。また、家族経営の小さな店では売り切れや営業時間の変更がある場合もあります。せっかく訪れたのに買えなかったということを避けるため、遠くから行く場合は事前に電話や公式SNSなどで確認すると安心です。
価格・営業時間の更新日
更新日:2026年9月18日
月餅の価格や営業時間は、商品、店舗、中秋節の時期によって変更される場合があります。特に季節限定の商品や家族経営の小さな店舗は、販売期間や営業時間が通常と異なることがあります。この記事の価格や営業時間は目安として参考にし、実際に訪問する前に最新情報を確認してください。
まとめ
ベトナムの月餅作りの魅力は、さまざまな味や美しい見た目だけではありません。生地を作り、餡を包み、型で模様をつけ、焼き上げるまでの一つひとつの工程に、職人の経験と家族で受け継いできた技術があります。特にチョロンには、何十年も家族で続いてきた月餅店が残っており、ベトナムの中秋節文化をより身近に感じることができます。
ホーチミンで中秋節を過ごすなら、大手ブランドの月餅だけでなく、ぜひローカルな家族経営の店にも足を運んでみてください。店頭に並ぶ月餅を眺めたり、焼き上がったばかりの香りを感じたり、実際に一つ選んでお茶と一緒に味わったりすることで、ベトナムの中秋節をより深く体験できます。月餅の味だけでなく、その背景にある家族の歴史や地域の文化にも注目してみると、旅の思い出がさらに豊かになるでしょう。
参考資料
・Tuổi Trẻ Online「Mùa Trung thu, bếp bánh vị xưa ở Chợ Lớn đỏ lửa」
https://tuoitre.vn/mua-trung-thu-bep-banh-vi-xua-o-cho-lon-do-lua-100260911141118758.htm
・Người Lao Động「Những lò bánh trung thu lâu đời ở Chợ Lớn」
https://nld.com.vn/nhung-lo-banh-trung-thu-lau-doi-o-cho-lon-196251005102334551.htm
・Kim Tân - KiTa 公式サイト
・ベトナム国家観光局(Vietnam National Authority of Tourism)公式観光サイト「Vietnam Tourism」
・ベトナム文化・スポーツ・観光省(Ministry of Culture, Sports and Tourism)公式サイト
執筆者:Thao Nhi
ベトナム・ホーチミン市の観光、グルメ、文化情報を中心に、日本語での記事制作・翻訳を担当しています。現地での取材や体験をもとに、旅行者に分かりやすい情報を発信しています。
最終更新日:2026年9月18日


