2026年8月23日、ベトナム戦争を長年取材した日本人報道写真家、石川文洋さんが88歳で亡くなりました。石川さんは1965年から1968年にかけてサイゴンを拠点にベトナム戦争を取材し、米軍や南ベトナム政府軍に同行しながら、戦場だけでなく、そこで暮らす人々の姿も記録しました。死去については、共同通信の報道をもとに日刊スポーツなどが伝えています。
ベトナム戦争を長年取材した報道写真家、石川文洋さん。
石川さんとベトナムとの関係は、戦争が終わった後も続きました。1998年には自身が撮影した写真作品をホーチミン市の戦争証跡博物館に寄贈し、その後もベトナムを訪問。2025年には戦争終結から50年の節目にホーチミン市を再訪し、かつて撮影した人々や取材に関わった場所を訪ねました。
現在、戦争証跡博物館には、石川さんが撮影した123点の写真による「ベトナム-戦争と平和」が収蔵されています。ただし、2026年6月20日から、このコレクションを含む3つの展示スペースは一時的に見学を休止しています。
石川文洋さんとは? 1965年にサイゴンへ
石川文洋さんは1938年、沖縄県那覇市生まれ。1965年にベトナム南部へ入り、サイゴンを拠点にフリーランスの報道写真家として取材を始めました。当時のサイゴンでは、現地で生活しながら取材を続け、米軍や南ベトナム政府軍に同行して各地の戦場へ向かいました。戦場で撮影するだけでなく、そこで暮らす人々の姿にもカメラを向けています。
石川さんは後年のインタビューで、1965年に初めてベトナムへ入った当時の生活についても語っています。サイゴンではベトナム人家庭の一室を借りて暮らし、現地の生活に入りながら取材を続けていました。
1960年代、ベトナム戦争の現場で取材を続けた石川文洋さん。
1965年から1968年にかけての取材では、南部各地を訪れました。ベトナムの報道では、クチ、タイニン、ビンディン、カマウ、ウーミンなど、石川さんが取材した地域が紹介されています。また、戦争中には取材中に何度も負傷したことも本人が語っています。
ベトナム戦争の取材で撮影した写真は膨大な数に上ります。ベトナムの報道によると、当時撮影したネガは1万5000枚を超えています。1960年代のベトナムを長期間にわたって記録した写真家として、石川さんは日本だけでなく、ベトナムでも知られる存在となりました。
石川さんが記録したベトナムの人々
「戦場カメラマン」という言葉からは、銃撃戦や爆撃など激しい戦闘の写真を想像しがちです。しかし、石川さんが残した写真を見るうえでは、戦場以外の場面にも目を向ける必要があります。石川さんは、戦争によって生活を変えられた市民、女性、子どもたちの姿も撮影しました。学校や仕事、農業など、戦争の中でも続いていた日常生活を記録しています。
石川さんは戦場だけでなく、戦時下で暮らす市民の日常も撮影した。
2024年にベトナムの学生たちと交流した際にも、石川さんは当時の取材について語っています。本人が後年に残した言葉からは、戦闘の激しさだけを伝えるのではなく、戦争によって普通の生活が失われていくことを記録しようとしていた姿勢がうかがえます。石川さんが考える「平和」は、特別な出来事ではなく、人が学校へ行き、仕事をし、農業を営み、家族と暮らすような日常に近いものでした。こうした視点は、後のベトナム訪問や写真の寄贈にもつながっています。
戦争が終わった後も、ベトナムを訪れ続けた
ベトナム戦争が終結した後も、石川さんはベトナムとの関わりを終えませんでした。かつて撮影した写真を整理するだけでなく、実際にベトナムへ戻り、当時の取材先や写真に写った人物を訪ねています。
1998年には、ベトナムで撮影した写真作品の多くを戦争証跡博物館に寄贈しました。同じ年、日本では「戦争と平和-ベトナム35年」と題した写真展が開かれ、東京を皮切りに大阪、沖縄、北海道で作品が紹介されています。
写真を寄贈した後も、石川さんは何度もベトナムを訪れました。戦争中に撮影した場所を再び歩き、当時の写真とその後のベトナムを見比べるような取材も続けています。
2025年には、ベトナム戦争終結から50年の節目にホーチミン市を再訪しました。かつて撮影した人々との再会や、過去の取材に関係する場所を訪れたほか、戦争の記憶を次の世代へ伝えることについても語っています。
1960年代の取材から数十年が経っても、石川さんはベトナムを「過去に取材した場所」として終わらせませんでした。戦争中に撮影した写真と、その後のベトナム社会の変化を自ら確認し続けたことも、石川さんの活動を考えるうえで重要な点です。
ホーチミン市に収蔵されている123点「ベトナム-戦争と平和」
ホーチミン市の戦争証跡博物館。石川文洋さんが撮影した写真の一部も収蔵されている。
石川さんの写真を現在のホーチミン市で知るうえで、特に重要なのが戦争証跡博物館の「ベトナム-戦争と平和」です。同館の公式情報によると、このコレクションは石川さんが撮影した123点の写真で構成されています。石川さんが1998年に寄贈した作品の一部が、現在もホーチミン市で資料として保存されています。
ここで注意したいのは、「123点が収蔵されていること」と「123点すべてが現在展示されていること」は同じではないという点です。収蔵作品とは、博物館が資料として保管している作品を指し、常に館内で公開されているとは限りません。また、123点という数字は、石川さんがベトナムで撮影した写真全体を示すものでもありません。1万5000枚を超えるネガを残した石川さんの膨大な取材記録のうち、戦争証跡博物館に収蔵されている写真コレクションが123点ということです。
日本人写真家がベトナム戦争を取材し、そこで撮影した作品の一部が、現在のベトナム国内の博物館で保存されています。日本人旅行者にとって、この点は石川さんの写真を知るうえで見逃せないポイントです。
2026年8月現在、石川さんの写真を見る際に注意したいこと
2026年8月現在、戦争証跡博物館は通常の開館を続けていますが、展示の一部は休止しています。博物館の公式サイトでは、「回想」「ベトナム-戦争と平和」「ベトナム戦争における枯葉剤」の3つの展示スペースについて、2026年6月20日から一時的に見学を休止すると案内されています。そのため、石川さんの写真を見ることを目的に博物館を訪れる場合は、「写真が博物館に収蔵されているから、現在も展示されている」と考えないほうがよいでしょう。
戦争証跡博物館では、2026年6月20日から一部の展示スペースが一時休止している。
特に検索結果や過去の旅行記事には、現在とは異なる展示状況が掲載されている可能性があります。訪問日が決まっている場合は、過去の記事ではなく、戦争証跡博物館の公式サイトで展示状況を確認することをおすすめします。現時点で再開時期が明確に案内されていない場合もあるため、石川さんの写真を目的とする旅行者は、通常の開館情報と展示情報を分けて確認しておくと安心です。
戦争証跡博物館の基本情報
戦争証跡博物館はホーチミン市中心部にあり、独立宮殿や統一会堂周辺など、市内中心部の観光と合わせて訪れやすい場所にあります。2026年8月時点で博物館公式サイトに掲載されている基本情報は以下の通りです。
- 施設名:戦争証跡博物館(War Remnants Museum)
- 住所:28 Võ Văn Tần, Phường Xuân Hòa, Thành phố Hồ Chí Minh
- 開館時間:7:30~17:30
- 休館日:なし
- チケットカウンター:7:30~17:00
- 入館料:一般40,000VND
チケットカウンターは17:00まで、博物館は17:30まで開館しています。夕方に訪れる場合は、チケット購入や入館にかかる時間も考えて、余裕を持って到着したほうがよいでしょう。また、入館料や開館時間が変更される可能性があるほか、今回のように一部展示が一時休止となることもあります。旅行日が決まったら、施設情報と展示状況の両方を確認しておくことが大切です。
1960年代のサイゴンと、現在のホーチミン市
石川さんがサイゴンで撮影を始めた1965年から、2026年までには60年以上の時間が流れています。現在のホーチミン市では、高層ビルや大型商業施設が建ち、カフェやレストランが並ぶ一方、1960年代のサイゴンを直接思わせる風景は限られています。初めてホーチミン市を訪れる旅行者にとって、現在の街から戦時下の様子を具体的に想像するのは簡単ではありません。
そのなかで、当時撮影された写真が現在のホーチミン市に残っていることは、街の過去を知るための具体的な手がかりになります。
写真に写っているのは、戦闘だけではありません。道路や建物、人々の服装、仕事、子どもたちの姿など、現在とは異なる当時の生活が記録されています。写真資料を見ることで、ベトナム戦争を「歴史上の出来事」としてだけではなく、当時そこに暮らしていた人々の生活として考えることができます。
また、石川さん自身が戦争終結から50年後の2025年に再びホーチミン市を訪れているため、1960年代の写真と現在の街の変化を一人の写真家の活動からたどることもできます。
1960年代のサイゴンから60年以上。現在のホーチミン市は大きく姿を変えている。
石川文洋さんが残した写真を、ホーチミン市で知る
石川文洋さんが亡くなったことで、1960年代のベトナムを撮影した一人の日本人写真家の仕事が、改めて注目されています。石川さんがサイゴンで撮影した写真の一部は、60年以上が経った現在もホーチミン市の戦争証跡博物館に収蔵されています。「ベトナム-戦争と平和」の123点は、その長い取材記録の一部です。
ただし、2026年8月現在は同コレクションを含む3つの展示スペースが一時休止しています。石川さんの写真を見るために博物館を訪れる場合は、収蔵情報と現在の展示状況を分けて確認する必要があります。1965年に石川さんが撮影したサイゴンと、現在のホーチミン市。同じ街をめぐる二つの時代を写真資料から知ることができる点に、このコレクションの特徴があります。
参考資料・情報源
- 戦争証跡博物館 公式サイト:「ベトナム-戦争と平和」123点の写真コレクション、1998年の寄贈、展示休止、開館時間、入館料などを確認。
- 共同通信/日刊スポーツ:2026年8月23日に報じられた石川文洋さんの死去、ベトナム戦争取材歴、受賞歴などを確認。
- Tuổi Trẻ Online:石川さんのベトナム取材、写真資料、2024年および2025年のベトナム訪問について確認。
- 日本写真家ユニオン:石川さんのベトナム取材、戦場以外の人々や日常生活の撮影、後年の活動について確認。
※記事内の歴史的な出来事、人物の発言、写真点数などは各情報源の公開情報に基づいて整理しています。引用元によって表記や説明が異なる場合があるため、人物の活動歴については複数の資料を照合しています。


