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ベトナム料理は日本でもすっかりおなじみになりました。
フォー、バインミー、ブンチャー。
旅行者にとっても安心して楽しめる料理が多く、どれもあっさりしていて優しい味。
でも、10年以上ホーチミンに暮らすようになって気づいたのは、
**「現地の人たちは、メニューに書いてある通りには食べていない」**ということ。
彼らは自由に組み合わせ、調味料を加え、時に“自分だけの裏メニュー”を楽しんでいるんです。
今日はそんな中から、私自身が現地で出会い、
「これは日本人の舌にもぴったりだ」と感じた裏メニューを5つご紹介します。
1.ミーゴイ・ボーコー(即席麺×牛すじシチュー)
ベトナム風の牛すじシチュー「ボーコー(Bò Kho)」は、
フランスパンやフォー、フーティウ(米麺)と合わせて食べるのが一般的。
ボーコーを初めて食べたとき、今でも覚えていますが、路上店を通りすがりに知らない料理の店があり、たまたま食べてみたところ、本当に美味しくて感動しました。
ただ、段々なれると、フォーやフーティウだとスープが少し水っぽく感じ、バインミーだと満足感が足りない。
どちらも美味しいけれど、あと一歩「しっくりこない」感が残ります。
そんなときに出会ったのが「ミーゴイ・ボーコー」。
ボーコーのスープにインスタント麺(ミーゴイ)を入れるだけ。
それだけでスープが濃厚に絡み、満足感がぐっと増します。
フォーのあっさりさとバインミーの軽さ、両方の欠点を見事に補う絶妙なバランスです。
初めて食べたとき、「これがベトナム庶民の最適解かもしれない」と思いました。
食堂で「Cho tôi mì gói bò kho(チョートイ・ミーゴイ・ボーコー)」と頼めば、
驚くほど自然に通じる“裏メニュー”です。
2.チャーカー・バインミー(魚の香草焼き×サンドイッチ)
日本でもすっかり馴染みのベトナム風サンドイッチ、バインミー
一般的なバインミーは、ハム・パテ・なますをパリッとして、かる~いフランスパンに入れたのが美味しいですよね。パクチーなどの香草も適度に入っていて、サラダ感、サンドイッチ感が高いのが特徴です。
それに比べてチャーカー・バインミーは、
醤油ベースのタレで味付けされた魚のうま味が主役になります。
日本人にとっては“さつま揚げのような優しい味わい”で、
一口目からどこか懐かしさを感じます。
北部ハノイの名物「チャーカー(Chả Cá)」は、
白身魚を香草とディルで炒めた、香り豊かな料理。
ホーチミンでもチャーカー専門店があり、
このチャーカーをバインミー(フランスパン)に挟む食べ方が密かに人気です。
私にとっても、長くベトナムで暮らす中でこうした
「少し日本に寄った味」に出会うと、ほっと心が落ち着きます。
現地の料理でありながら、日常の中に自然に馴染む味。
それがチャーカー・バインミーの魅力です。
3.コムヴァン&麻婆茄子(ターメリックライス×中華惣菜)
この組み合わせは、完全に“偶然の発見”でした。
よく麻婆茄子を食べに行っていたローカルレストランで、
友人が頼んだコムガー(ベトナム風チキンライス)をシェアしたのがきっかけ。
そのとき、麻婆茄子を少しのせて食べてみると――
ターメリックの香るご飯とピリ辛ソースの相性が驚くほど良い。
ナスのとろみと鶏の旨味が絡み合い、コムガーをまるで新しい料理に変えてしまったのです。
それ以来、私はこの組み合わせにハマり、
最近では鶏なしで**ご飯だけの「コムヴァン(Cơm Vàng)」**を頼むこともあります。
麻婆茄子を主役に、ターメリックライスを受け皿にする。
油っぽくなりすぎず、家庭的で落ち着く味。
日本人の舌にも不思議としっくりくる、毎日でも食べられる一皿です。
4.カリー・ガー(鶏カレー×フランスパン)
カレーと言えば、インド。東南アジアのカレーといえば、タイカレーが有名ですよね。タイのグリーンカレーも大好物です。
そして、ベトナムにもカレーはあります。ベトナムの「カリー・ガー(Cà Ri Gà)」は、スープカレーのようなサラッとしたタイプ。ココナッツミルクがベースで、甘みとスパイスの香りが柔らかく広がります。
そして何より特徴的なのは、ゴロッと大きいチキンが入っていること。
このカレーはご飯ではなく、バインミー(フランスパン)で食べるのがベトナム流。
パンをスープに浸して食べると、外はカリッ、中はふんわり。
軽やかな口当たりとスパイスのコクが見事に融合します。
カリー・ガーを出すお店はそれほど多くなく、
見つけたときはちょっとした“ご褒美感”があります。
そして一つだけ、個人的な不満を挙げるなら――
カレーなのにじゃがいもが入っていないこと。
代わりに入っているのは、ねっとりとした里芋のような芋。
日本人の感覚からすると少し違和感がありますが、
それもまた“ここはベトナムなんだな”と感じる小さなスパイスです。
5.フォー・サテ(濃厚ごまスープ×ピーナッツのコク)
ベトナム料理は全体的にあっさりしているため、
食後に「もう少しパンチが欲しい」と思うことがあります。
そんなときにぴったりなのが**「フォー・サテ(Phở Sa Tế)」**。
サテ(saté)は、ピーナッツ・ごま・唐辛子をベースにした香味調味料。
これをスープに溶かしたフォーは、まろやかでコク深く、
一口で「これ、ベトナム料理なの?」と思うほど濃厚です。
私は最初、あまりのごま風味に驚き、
「これは日本人が好きなラーメンのスープに近い」と感じました。
サテのコクがフォーのあっさりスープを支え、
他のベトナム料理では得られない“満足感”があります。
一時期、試しに中華麺を使った「ミー・サテ」も食べてみましたが、
スープとの相性ではフォーが一番。
サテの香りを邪魔せず、むしろ引き立ててくれます。
辛すぎず、ピーナッツの甘みもほんのり感じられる――
フォー好きの方にこそ味わってほしい“裏フォー”です。
ベトナムの『裏メニュー』は実は日常のご飯
今回紹介した5つの裏メニューは、
どれも特別なレストランの料理ではありません。
日々の食堂や屋台の中で、ローカルの人が自然に楽しんでいる“暮らしの味”です。
ベトナムの食文化はとても柔軟で、
「この料理はこう食べなければならない」というルールがありません。
その自由さこそが、長く暮らしても飽きない理由のひとつ。
そして何より――
これらの裏メニューは、どれも日本人の口に合う、どこか馴染みのある味です。
現地の中に潜む“しっくりくる日本の感覚”。
それを見つけたとき、ベトナムでの食事がぐっと身近に、そして愛おしく感じられます。
もしあなたがホーチミンを訪れるなら、
ぜひメニューにない組み合わせを少しだけ試してみてください。
それが、あなたの旅を“観光”から“暮らし”へと変える第一歩になるかもしれません。
