私は今年21歳で、ベトナム中部のニャチャンで生まれ育ちました。大学進学をきっかけにホーチミン市に引っ越してから、もうすぐ4年になります。ベトナムには地域ごとにたくさんの伝統菓子がありますが、子どものころから食べてきたお菓子を思い出すと、どれも懐かしくて温かい気持ちになります。今日は、私がこれまでに食べた中でも特に印象に残っているいくつかの伝統的な甘いお菓子を紹介したいと思います。
ハノイを思い出す味「バイン・コム(Bánh cốm)」
「バイン・コム」と聞くと、私はまずハノイを思い浮かべます。
ハノイでは、昔から「ルア・ネップ・カイ・ホア・ヴァン」という香り高いもち米が栽培されていて、そのもち米を使った“コム(若いもち米を蒸したもの)”が有名です。
このコムを使って作られるのがバイン・コム。
もともとはハノイ旧市街で生まれたお菓子で、結婚式やお祝い事の贈り物として使われてきました。
今ではハノイの象徴的な伝統菓子として知られています。
外側は淡い緑色のもちもちした生地で、中には甘くて香ばしい緑豆あんが入っています。
上品な甘さともち米の香りが口いっぱいに広がり、ベトナムの緑茶と一緒に食べるととても合います。
最近では真空パックされたものがスーパーでも販売されているので、お土産にもぴったりです。
ソクチャン発、独特な香りの「バイン・ピア(Bánh pía)」
次に紹介したいのは南部のソクチャン省の名物「バイン・ピア」です。
このお菓子はもともと潮州系中国人の月餅から生まれたもので、今ではベトナム風にアレンジされ、緑豆あんや塩漬け卵黄、ドリアンを使うのが特徴です。
私は正直ドリアンが苦手なのですが、バイン・ピアだけは食べられます。
ドリアンの独特な香りが抑えられ、甘くてクリーミーな味に変わっているからです。
外側の皮はパイ生地のように何層にも重なっていて、切ると中から黄金色の卵黄とやわらかなあんがのぞきます。
そのコントラストが美しく、見た目でも楽しめるお菓子です。
ホーチミン市のスーパーでも手軽に買えるので、もし旅の途中で見つけたらぜひ試してみてください。
コーヒーと一緒に食べると、甘さと苦味のバランスがとても良いですよ。
テトに欠かせない「バイン・トゥアン(Bánh thuẫn)」
中部地方のクアンチ省出身の父の影響で、私は子どものころから「バイン・トゥアン」に親しんできました。
特にテト(旧正月)の時期になると、親戚の家で焼く香ばしい匂いが家中に広がります。
このお菓子は見た目がカップケーキに似ていますが、焼き上がると花のように5つに割れて開く形になります。
昔から「幸運」や「豊かさ」の象徴とされ、祝いの席には欠かせない存在です。
材料はタピオカ粉、卵、砂糖、ミルクとシンプルですが、膨らませるためのベーキングパウダーは使わず、卵をしっかり泡立てて焼き上げます。
ほんのりミルクとしょうがの香りがして、口に入れるとふわっと溶けるような軽い食感です。
焼いた後に乾燥させることで日持ちもよく、冷蔵庫に入れなくても保存できます。
おわりに
ベトナムにはこのほかにも「バイン・ダー・ロン(Bánh da lợn)」や「バイン・チョイ・ヌォック(Bánh trôi nước)」など、まだまだたくさんの伝統的なお菓子があります。どれも手作りの温かみがあって、食べると子どものころの記憶がよみがえります。これらのお菓子については、次回もう少し詳しく紹介したいと思います。
旅行者の方にとっては、お菓子を通して地域ごとの文化や暮らしを感じられるのもベトナム旅行の魅力のひとつだと思います。もしベトナムを訪れる機会があれば、ぜひ市場や街角の小さなお店で、こうした伝統的なお菓子を探してみてください。きっと、味だけでなくその土地のあたたかさにも触れられるはずです。
