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――小さい椅子に座って、ローカル目線のホーチミンを感じてみよう――
ホーチミンを歩いていると、あちこちで見かける小さなプラスチックの椅子。
赤や青、緑、ピンク。カラフルで、どこか子どものおもちゃのようにも見えます。
でもその椅子こそが、ベトナムの人たちの生活を支えている“日常の道具”です。
朝はカフェでコーヒーを飲みながら新聞を読むおじさん。
昼にはフォー屋台でランチをとる会社員。
夜になると、歩道のあちこちに若者たちが集まり、笑いながら夜を過ごしています。
どの場面にも、必ず小さな椅子があります。
なぜベトナムの人たちは、こんなにも“座る”ことが好きなのか?
今回は、そんな小さな椅子から見えるホーチミンの“もうひとつの顔”を紹介します。
1.ベトナムの路上文化に欠かせない“小さい椅子”
ベトナムの街を歩くと、歩道のあちこちにカフェや屋台が並び、小さな椅子がずらっと並んでいます。
朝の通勤時間帯にはカフェに腰かけてベトナムコーヒーを飲む人たちが並び、昼にはランチ屋台に人が集まります。
夕方にはバインミーを片手に座って談笑し、夜にはビールやジュースを片手に語り合う――一日中、誰かが座っているのです。
この小さな椅子は、店でもあり、リビングでもあり、社交場でもある。
道端に椅子を並べるだけで、そこが“お店”になり、人が集まり、会話が生まれる。
この気軽さこそが、ベトナムの街の活気を生み出しているのだと思います。
ホーチミンの夜風の中、プラスチックの椅子に腰かけて食事をする。
バイクの音が通り過ぎ、煙の匂いが流れる。
そんな何でもない光景に、ベトナムの“生きている街”を感じます。
2.オフィスにもある“小さい椅子”
小さな椅子文化は、屋台だけにとどまりません。
ベトナムのオフィスにも、どこかに必ず小さい椅子が置かれています。
打ち合わせの途中で出てきたり、ランチ後の雑談タイムに自然に並んでいたり。
日本ならミーティングルームや会議テーブルでかしこまって話すところを、
ベトナムでは「椅子を出して、ここでいいじゃん」という感覚。
小さな椅子に座ってカフェを飲みながら話していると、立場の上下も関係なく、柔らかい空気が生まれます。
座る=リラックス。
それがベトナム社会の中で自然と身についているように思います。
気軽に座って話し、笑い、そしてまた動き出す。
そんなテンポの良い人間関係が、この国の“居心地の良さ”を作っているのかもしれません。
3.路上屋台での食事、すぐ後ろをバイクが通り過ぎる
観光で初めて路上の屋台に座ると、多くの人が最初に驚くのが「近さ」です。
テーブルのすぐ後ろをバイクが通り抜け、クラクションが鳴り響く。
煙の向こうから調理の音、笑い声、BGMが入り混じる。
最初は落ち着かないけれど、慣れてくると不思議と心地よく感じてきます。
その雑多さが、この街のリズム。
屋台に座ると、食事だけでなく“街の一部になる感覚”が味わえるのです。
バイクの流れ、人の話し声、熱気を帯びているけど涼しい風、氷を割る音。
五感のすべてが街のエネルギーに包まれる瞬間。
それこそがホーチミンらしい食体験の魅力です。
4.夜のホーチミン、椅子とともに集う若者たち
日が暮れると、ホーチミンの街はさらに椅子であふれます。
歩道や公園の前、川沿いの通りには、小さな椅子を並べて語り合う若者たちの姿。
誰かがスピーカーで音楽を流し、となりのグループが一緒に口ずさむ。
カップル、学生、仕事帰りの仲間――年齢も立場も関係なく、ただ“座って話す”時間が流れます。
この「座って過ごす夜」が、ベトナムの夜の象徴のひとつ。
高価なレストランでも、バーでもなく、歩道の上で過ごす小さな時間。
でもそこに、ホーチミンらしい自由さと明るさが詰まっています。
夜風が気持ちよく、笑い声が絶えない。
そんな風景を見ると、この街の人たちの“今を楽しむ力”を感じずにはいられません。
5.ブイビエン通りでは、座布団文化が誕生
一方で、観光地エリアのブイビエン通りでは、以前「歩道に椅子を出すことが禁止された」時期がありました。
すると店の人たちは、なんと“椅子の代わりに座布団”を並べ始めました。
地面に座ってでも楽しむ、その発想とたくましさ。
ルールが変わっても、座る文化を諦めない。
それは“座る=集まる”という文化がどれだけ根づいているかを物語っています。
この柔軟さと明るさは、まさにベトナムの人たちの生きる力そのものです。
6.小さな椅子に座ると、世界が少し違って見える
実際に路上カフェの小さな椅子に座ってみると、
いつもより視線が低くなり、街の表情が少し違って見えます。
目の前を行き交う人の足元、屋台で働く人の手元、バイクの流れ、遠くのネオン。
どれも、普段立って歩いているときには見えない景色です。
低い椅子に座ると、街のスピードが少し緩やかに感じられる。
ベトナムの人たちは、きっと無意識のうちにこの“余白の時間”を楽しんでいるのかもしれません。
観光スポットを巡るのも楽しいですが、
時には立ち止まって、小さな椅子に腰を下ろし、通りを眺めてみてください。
見慣れたホーチミンの風景が、少し違って見えるはずです。
座るという行為が、こんなにも人をリラックスさせ、街を近く感じさせる。
それが、この国の小さな椅子が持つ魔法です。
