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BINON CACAO の物語【前編】— ベトナムの土地と可能性を信じた、ひとりの創業者の挑戦

BINON CACAO の物語【前編】— ベトナムの土地と可能性を信じた、ひとりの創業者の挑戦

by ホーチミン観光情報ガイド
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ベトナム東南部。地元の人々で賑わう海岸のイメージが強いバリアブンタウの内陸に、カカオ農園と小さなチョコレート工場を構えるブランドがあります。BINON CACAO(ビノンカカオ)です。

CEOの遠藤亜矢子さんは、“おいしいチョコレートをつくる”という一点に、迷いなく時間を注いできました。

このブランドの物語は、ひと粒のチョコレートが生まれるまでの旅を追体験するように、奥行きのある味わいを持っています。

今回、その歩みとカカオへの想いをうかがいました。

BINON CACAO の物語【前編】— ベトナムの土地と可能性を信じた、ひとりの創業者の挑戦

【#BINON_CACAO_PARK】カカオパーク内での一枚-CEO・遠藤亜矢子さん

※本記事は前編です。遠藤さんの「ベトナムカカオの個性と味の哲学」に迫る後編も同時公開していま

BINON CACAO の物語—最初の壁

事業ライセンスがようやく取れて、 「ここからやっとスタートできる」と思った矢先でした。 世界は突然コロナへと沈み、 工場を動かすことも、農園へ行くことさえ難しい日々が続きました。仕事は止まり、人の移動も制限され、 「もう続けられないかもしれない」—— そんな不安が何度も胸をよぎったといいます。

それでも遠藤さんは、焦らず、淡々と続けました。“今日できることを、ひとつずつ積み重ねる。” その気持ちだけを頼りに。

そんな中で、ひとつの小さな追い風となったのが、 無印良品から声をかけてもらったこと。 商品を見ていただき、取り扱いの話が進んだことは、 不安な時期のなかで気持ちを支えてくれる出来事のひとつでした。

世界の状況に翻弄されたあの時期を越えても、現場にはまだ別の壁が待っていました。ビジネスの問題ではなく、農園そのものが突きつけてきた、もっと静かで根の深い試練です。

接ぎ木されていなかった1000本ー最初の実がなるまで、3年半

購入した1000本の苗木を何もない土地に植えましたが育ちがとても遅い。1年半ほどたってようやく気づきました。 調べると、それは接ぎ木されていない苗だったんです。だから成長がとても遅い。任せていたはずの農業の責任者も知らんふり。 それから改めて接ぎ木を始めました。「1年くらい無駄にしちゃった。」遠藤さんはそう苦笑しながら話してくれました。3年半かけて最初のカカオの実がなった日、「本当に嬉しかった。」小さくても確かに前へ進む感覚。その一歩が、BINON CACAOの基礎になっていきました。

BINON CACAO の物語【前編】— ベトナムの土地と可能性を信じた、ひとりの創業者の挑戦

生産者さんとカカオの木の前で

最初の実がなった日の喜びは、単なる達成感ではありませんでした。遠藤さんにとってそれは、ベトナムの土地が持つ“味の可能性”を、確信に変えた瞬間でもあったのです。

ベトナムのカカオがもつポテンシャル

カカオの木と毎日向き合うほど、遠藤さんの確信は強くなっていきました。ベトナムのカカオは、世界に誇れるポテンシャルを持っている。ティエンザン省のパッションフルーツのような酸味、ダクラクのナッティーなコク、バリア・ブンタウの赤い果実のような風味。同じ国の中でも、地域によってまったく味が違う。その個性は、世界市場でも珍しいものです。 「ベトナムのカカオは世界で戦える」そう確信しました。

だからこそ、その個性を“正しく、美しく”伝える必要がある。遠藤さんの視線が、自然とパッケージへ向かった理由です。

こだわるのは、素材の良さと誠実さ。

最初の実がなった日の喜びは、単なる達成感ではありませんでした。遠藤さんにとってそれは、ベトナムの土地が持つ“味の可能性”を、確信に変えた瞬間でもあったのです。

遠藤さんはこうも言います。「ベトナムのカカオ等の農産物の素材はすごくいいんですが、包装デザインがもう少し美しければ、その良さをもっと表現できるのに」と思うことがあります。だから、“食べてみたい、人に贈りたい”と思ってもらえる形にしたいんですよね。だからデザインにもこだわっています。

BINON CACAO の物語【前編】— ベトナムの土地と可能性を信じた、ひとりの創業者の挑戦

一本ずつ人の手で包まれていくBinonのチョコレート

味と見た目を整えた先に、遠藤さんが次に考えたのは「どうすれば、その背景ごと伝えられるか」でした。

すべての道は“美味しいチョコレート”に通じている

農園ツアー、チョコレート作りワークショップ、食育の教育プログラム。BINON CACAOが広げている取り組みは広く見えるかもしれませんが、遠藤さんはそれらを“事業の本体”とは考えていません。

「美味しいチョコレートをつくることが事業の軸です。」そう話す遠藤さんにとって、ツアーや体験プログラムは別の目的があります。

BINON CACAO の物語【前編】— ベトナムの土地と可能性を信じた、ひとりの創業者の挑戦

それは、ベトナムのカカオの魅力を知ってもらい、BINONのブランドを伝えるための場所をつくること。チョコレートの背景にあるストーリーを訪れに人たちに知ってもらうことで、BINON CACAOのチョコレートそのものへの価値がより伝わるようになる。

私は “この人のビジョンはこれからどれだけ事業が広がっても揺らがないんだろうな” と強く感じました。

チョコレートづくりという軸がしっかりあるからこそ、BINON CACAOの挑戦は自然と広がっていく—— そんな確信を持たせてくれる言葉でした。

ベトナムのカカオで、誰かの人生を少し豊かに

BINON CACAO の物語は、まだ続いています。植樹体験で芽吹いたカカオを見守る人。 初めてベトナム産チョコレートを食べて驚く観光客。 収穫を誇らしげに語る農家の家族。そのひとつひとつが、BINON にとって欠かせない大切な登場人物です。

取材の中で、遠藤さんがふと語った言葉があります。 「スタッフの笑顔が見られた瞬間が、一番幸せなんです。」 その一言に、彼女の静かな強さと、揺るがない信念がにじんでいました。

遠藤さんが描く未来は、とてもシンプルです。 「ベトナムのカカオで、みんなが幸せになれる世界を。」カカオの殻を肥料にして無駄を出さないようにするなど、 環境への配慮も欠かしません。その想いは、小さなチョコレートにそっと込められ、 今日もまた、誰かの手に渡っていきます。

▶BINON CACAO の物語【後編】へ続く

後編では、地域ごとに表情を変える“ベトナムカカオの味の個性”と、遠藤さんの美学に迫ります。

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ホーチミン観光情報ガイド

ベトナム国内を取材して回っています。
ローカルな楽しみ方から、旅行者に絶対知ってもらいたい定番スポットまで、あらゆる場所を取材します。

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