ホタルと星と──メコンの夜、ふたつの光に出会う旅ーー
メコン川の奥地で、ひと晩を過ごしました。
季節は雨季、けれど奇跡のように、雨は降らず、空には星が瞬いていました。
風にそよぐ木々の間、暗がりの草むらに、ふわりと小さな光が舞います。ホタルです。
ゆっくりと、一匹、二匹。時間が止まったような静寂の中、命の灯がそっと揺れていました。
目線を少しあげると、黒く深い空を背景に、無数の星たちが、もうひとつの光を放っていました。
南の空。さそり座です。日本では地平線に近いところにしか見えませんが、ホーチミンのさそりは違います。
南国の夜空に、さそりはその全身をあらわにし、堂々と、大きくハサミを広げています。
漆黒の闇に、恐れおののけと言わんばかり、夜の王のごとく空を支配しているかのようでした。
赤く燃えるアンタレスは、さそりの心臓の鼓動を伝えるようにゆったりと瞬いています。
けれど──そのさそりに、そっと狙いを定めている者がいます。夜空の弓使い、いて座。
ぎゅっと矢を引きしぼり、静かに、しかし確かに、さそりの心臓を見据えています。
しかし、その凛々しい弓使いの中に、思わぬ可愛らしさが隠れています。
いて座の一部を形づくる星たちは、「ティーポット」と呼ばれる、ちいさな急須のかたち。
まるでお茶の時間を楽しむように、天の川に湯気を立てるかのような並びに見えるのです。
勇ましく、そしてどこか愛らしい。夜空の戦士は、鋭い矢と、やさしいお茶の香りを、その胸に宿しているのかもしれません。
いて座のティーポットの注ぎ口あたりに並ぶ六つの星々──それは「南斗六星」とも呼ばれます。
ひしゃくのようなかたちをしたこの星の並び。そう、北の空にある誰もが知る「北斗七星」と対をなす存在です。
北の空、この日の夜の北斗七星は、雲を掬っていて先端のおたまの部分は白くなっていました。