ベトナムの伝統衣装といえば、誰もが真っ先に「アオザイ」を思い浮かべることでしょう。でも実は、アオザイ以外にも魅力的な伝統衣装がいくつもあることをご存知ですか?恥ずかしながら、ベトナムで生まれ育った私自身も、これまでに着たことがあるのはアオザイだけで、他の衣装にはまだ袖を通したことがありません。
そこで今回は、私と一緒にベトナムの「もう一つの伝統美」を探求してみませんか?アオザイとはどう違うのか、どんな歴史や特徴があるのか、その奥深い世界を覗いてみましょう。
1. ニャットビン(Áo Nhật Bình)
まずご紹介したいのが「ニャットビン」です。これは阮朝(グエン朝)時代の皇后や王女の常服、あるいは側室たちの礼服として使われていた、とても格式高い衣装です。このニャットビンを世界に広める大きな役割を果たしたのが、ベトナム史上最後の皇后、ナムフオン(南芳)皇后だと言われています。
かつては高貴な身分の女性だけが着用を許されたニャットビンですが、今ではそのラグジュアリーで美しい佇まいから、テト(旧正月)や結婚式、写真撮影などでとても人気があります。最大の特徴は、襟元が長方形(漢字の「日」の形)をしていることで、以前は身分によって黄色や赤などの色が決められていました。でも現代では、白やピンク、オレンジなど、自由でクリエイティブな色がたくさん登場しています。
個人的にとても惹かれるのは、そのシルエットです。アオザイのように体を締め付けるのではなく、裾に向かって広がるベル型をしていて、肩の切り替えもありません。お腹周りをゆったりカバーしてくれるので、体型を気にせず、妊婦さんでもリラックスして着られるのが嬉しいポイントですね。私も一度着てみたいのですが、ゆったりと快適なのに、どこか厳かでノスタルジックな雰囲気が漂うところが本当に素敵だなと感じています。
2. ザオリン(Áo Giao Lĩnh )
続いては、東アジアで非常に長い歴史を持つ「ザオリン」です。李・陳・黎朝時代、庶民の間で最も親しまれていたスタイルで、「ザオリン(交領)」という名の通り、襟を前で交差させて着用します。基本的には左側の襟を右側の上に重ねて、下には「トゥオン(Thường)」という巻きスカートを合わせます。
この衣装の面白いところは、性別や身分を問わず、誰でも日常的に着られたという点です。阮朝時代になると宮廷内での使用がメインになりましたが、丈の長いタイプや短いタイプ、袖が広いものや細いものなど、バリエーションも豊か。もしこの伝統的なザオリンを着て、大きな「ノンバタム(Nón ba tằm)」という帽子を被ったら、現代でもすごくクールで「映える」スタイルになるんじゃないかな、なんて想像しています。
3. アオタック(Áo Tấc )
最後は「アオタック」です。これは5枚の布から作られる「五身(Ngũ thân)」という形式の礼服で、阮朝時代にはあらゆる階級の人が着用していました。この「5枚の布」には深い意味があって、前後の4枚の身頃は両親と義理の両親を、内側の1枚は自分自身を表しているそうです。「子供は一生、両親に包まれて守られている」という東洋の教えが込められていると知り、袖を通すたびに親への感謝を思い出すような、温かい衣装だなと感じました。
私自身の感覚では、アオタックはアオザイよりも裾が少し短めですが、その分、袖が驚くほど広くて優雅な印象です。また、昔の人はよく木製の下駄(Guốc gỗ)を合わせていましたが、今見てもその組み合わせが一番しっくりくる気がします。特に全身写真を撮るとき、そのクラシックな美しさが一番引き立つんですよね。
おわりに
こうして改めて調べてみると、ベトナムの伝統衣装にはそれぞれに深い物語と、アオザイとはまた違った美しさがあることに気づかされます。
現代のファッションも素敵ですが、たまにはこうした「古き良きもの」を身に纏い、先祖たちの精神に思いを馳せるのも贅沢な時間ではないでしょうか。いつか私がニャットビンやアオタックを着て、歴史ある街角を歩く日が来るのが今から楽しみです。皆さんもベトナムに来られた際は、ぜひアオザイ以外の伝統衣装にも注目してみてくださいね。
